瑞花



 花のようだ。と形容すれば彼は笑う。馬鹿にしたような笑みだった。私の言葉はゴミ屑のように扱われて彼は歩む。雪原の上を。足跡はついても、すぐに雪で隠れてしまう。彼の軌跡を残させない為か、少しばかり雪は強かった。
 灰色の空に散る雪の花。花のように咲くわけではない、蕾があるわけでもない。ただ、散っているだけだった。まるで彼のようだ。
 キレイな花びらを集めて満足しているような、それしか知らない子供のようだ。
 花びらが集まって咲く様は美しいと言うのに。この雪の大地に花が咲くことは滅多にないから、きっと彼は見たことがないのだろう。
 太陽の光を浴び、重なり合って咲く花を。
 重なり合う、人のように、人の生涯のように、儚げでおぼろげでそれでも美しいと言わざるを得ないものを。

「絶望ばかりが散っているのではありませんよ」

 散るものは残酷だけれど、それだけではないと、いや、そんなこと言えはしない。
 私の言葉もまた、彼にとってはゴミ屑で散った花びらのようなものなのだから。


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