散ってしまった花は戻らないし、元に戻そうとも思わない。
「嘘、やろ……」
「トーニョか? 老けたなー」
「嘘や……あんたはいなくなったはずなんや!」
「アーサーの馬鹿が何かやったんじゃねぇか?」
目の前に現れたのは何百年も前に消えてしまったはずの姿だった。ロマーノたちの祖父。いつかの時代を共に過ごした、ローマ帝国。そして、恋慕の情を抱いていた相手。
動揺を隠せないスペインに対して、ローマ帝国はいたって普通だった。イギリスが不思議な力を持っていることは知っていたし、時折こうした現象が起きることをどの国も少なからず体感している。
「喜ばねぇのかよ。折角会えたんだぜ?」
「喜べるわけないやろ。いきなり姿消して、今度はいきなり現れたんさかい。オレはもうあんたのこと忘れたんや。今更、姿見せんといてくれよ……」
昔々、好きだった。誰よりも、何よりも、世界よりも、愛していた。散ってしまう恋だとは知っていた。けれど、それでも、スペインはよかった。スペインの気持ちを知るローマ帝国は愛せないと知りつつも、それでもスペインを愛していた。
模造のような愛だったけれど、それでよかったのだ。
「昔は懐いて来たくせによ」
「昔は昔や。今は違うんや。オレはあんたなんか、もう……!」
「──愛されていなかったのはどっちだろうな」
焦げ茶の瞳が鋭く光る。その眼光と言葉にスペインは言葉を詰まらせた。
ほんとうに愛していたのはスペインだけで──。
スペインは言葉を飲み込み、拳を作り怒りを流そうとするが、そうもいかない。積り積った想いは花びらのように軽くはない。散っているとしても、もう鮮やかな色はついていないにしても、想いが晴れることはないのだ。
「オレに、どないしろ言うんや……!」
散ってしまった花は元には戻らない。元から散っているならば、不可能だろう。
咲いた花のようには、もう。
終