雨降花


「それ、摘むなよ」
「何でや?」

 小さな花に手を伸ばしたスペインにプロイセンは制止の声をあげる。
 小さな、花だった。薄い青に染まった、まるで哀を現したかのように、ひっそりとした花。珍しいものだから、スペインは手を伸ばした。太陽が照りつける庭で。

「それ摘むと雨が降る」
「そうなんや。けったいな花やなぁ」
「だろ。折角晴れてんだ、やめとけ」

 プーちゃんはお日さんが好きなんやなぁ、とスペインは呑気に返す。その様子を見てプロイセンは呆れて、ため息しかでなかった。
 太陽は沈む。けれど、昔太陽の沈まない国と謳われた人物が目の前にいる。
雲が空を覆えば太陽は隠れる。雨が降れば勿論、日の光が地に差すことはない。
太陽にとって、曇りや雨は天敵だろう。それなのに、自ら雨を降らせるなど馬鹿なことだ。

「お前が太陽みたいだからな」
「何やそれ、好きゆうてくれとんの?」
「ちげぇよ、馬鹿」

 そうなん、と詰まらなさげに返すも本音は見抜いているようだった。スペインはにやりと微笑んで、ぷつりと花を摘む。
 あ、とプロイセンは声を漏らし、スペインは摘んだ花を無碍にもぐしゃりと潰す。
 散る花びら。捨てるように花びらは地に降り、淡い青の色は跡かたも見えなくなってしまった。

「あー、雨降るぞ」
「そないな迷信信じんときや、プーちゃん」
「うっせぇ」

 プロイセン自身も少し思っていたのだろう、こんな迷信を信じるだなんて。
 スペインはプロイセンと距離をつめ、真紅の瞳を覗きこむ。
 かちあうエメラルドの瞳とルビーの瞳。キレイ。その緑に引き込まれてしまいそうなくらいに、緑は深い。
 花につく葉のように、深い深い緑。キレイな花には刺がある──だが、実際に刺を持っているのは茎や葉だ。

「プロイセンはオレだけ見てればええんよ。他はいらん」

 刺のように鋭い言葉だった。刺がささって、抜け出せなくなりそうだとプロイセンはふと思う。
 結局、雨は降らなかった。いつまでも、太陽は二人を見ている。
 もう一つの太陽は、彼だけを見ていた。

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